アメリカ不動産は個人所有か法人所有か?
そもそも、所有形態を法人か個人かで考えますと、自分が住むなら個人所有で賃貸に出すなら法人所有って事なのではないの?って思いますよね?
しかし、この所有形態を法人にするか個人にするかは正直私にも分かりません。
分かりませんと言うとちょっと乱暴ですが、つまりは人それぞれによって税制面や将来の展開次第でどちらが有利かという事が結論だと思います。
当然、個人よりも法人の方が確定申告の費用も割高になります。
特にアメリカ不動産を購入する時はお金さえあれば買えますが、事情があって売却する時や持ち主が亡くなってしまって相続する時にかかる税金は個人であるか法人であるか?さらには日本人か?アメリカ市民であるのかでも大きく違ってきますので、購入時にそこまで考えて購入する事が大事になってきます。
そして皆さんが一番考える事として購入後に自分が住んだり、賃貸物件として利益を出したり、どうしてもそこだけにフォーカスしがちですが、問題が起きるのは売却時や相続の時です。
まず、一般的に日本人がアメリカ不動産を売却する場合にかかってくる税金や費用について
- まず最初に非常に高額な連邦源泉税(FIRPTA)が不動産売却額の15%かかります
- そして州の源泉税。州によって異なりますがハワイ州の場合(HARPTA)は7.25%かかります
- キャピタルゲイン税が売却益に対して最大20%(更に*減価償却費も上乗せされます)
*例を使って説明します
売却時の不動産価格:8,000万円
取得時の不動産価格:5,000万円
減価償却費:1,000万円
この場合、「8,000万円(売却時の不動産価格) - 5,000万円(取得時の不動産価格) = 3,000万円」が売却益ではありません。それまで減価償却した費用についても上乗せする必要があります。
つまり、売却益は以下のようになります。
8,000万円(売却時の不動産価格) - 5,000万円(取得時の不動産価格) + 1,000万円(減価償却費) = 4,000万円
4,000万円が売却益ですのでその20%の800万円がキャピタルゲイン税です
- 不動産会社への仲介手数料が売却額の6%
- エスクロー費用が売却額の1%
これだけかかるのですべて計算しますと、
8,000万円(売却時の不動産価格)ー1200万円(連邦源泉税)ー580万円(州の源泉税)ー800万円(キャピタルゲイン税)ー480万円(不動産会社への仲介手数料)ー80万円(エスクロー費用)
=4860万円
アメリカで8,000万円の不動産を売却した場合、税金や経費を差し引いて手元の残り金額は4860万円になります。
もちろん、源泉税の過払い分は確定申告の際に多少は戻ってきますが、実際に購入した金額は5000万円ですので、
5000万円(取得時の不動産価格)ー4860万円(手残り額)= ー140万円
値上がり益どころか140万円の赤字です。
これがアメリ不動産の罠ともいうべきところか、購入する前に税金の事や経費をしっかり把握した上で購入する事が大切です。
更に日本人がアメリカの不動産を購入し値上がりして売却した場合には、日本に対してもキャピタルゲイン税を支払う義務があります。
日本人は国内外問わず課税されるとなると、納得いかない方も多いはずです。
このような2重課税を調整する仕組みとして「外国税額控除」がありますが、そういう義務もありその際にかかる日本での税務費用も考慮しておく必要があります。
さて、日本人が個人としてアメリカ不動産を購入した場合、これだけの税金や経費がかかるという事を理解した上で、売却する時はこの様な現実がある事をしっかり理解しておいて下さい。
特に、ハワイなどでは購入する際にその事を解っていて購入時に説明してくれる不動産エージェントはごく僅かです。
言い方が悪いかもしれませんが、不動産エージェントは売れれば後の事は関係ありません。
もし、アメリカ不動産エージェントの方がこれを見ていたらごめんなさい。
皆んなが皆んなそうだとは言いませんが、現実として多いと思います。
ちなみに私の妻もアメリカ不動産エージェントの資格を持っていました。
自分を守るためにもこの5つの費用と日本でも納税の義務がある事は頭に入れておいて下さい。
そして、アメリカ人であればこの高額な連邦源泉税(FIRPTA)が免除され、売却する州の居住者であれば州の源泉税も免除されます。
つまり、外国人がアメリカの不動産を購入するにはとてつもなく高額な税金を支払わされるという事です。
だからと言ってアメリカに不動産資産を持つ事を諦めろと言っている訳ではありません。
ここで、出てくるのが法人での所有です。
法人とはつまり法の人。
アメリカの法律での自分の代わりの人です。
つまり、アメリカ人です。
この法人を設立して、法人として物件を所有する事によって売却時の連邦源泉税(FIRPTA)、州の源泉税を支払わずにすむことが出来ます。
キャピタルゲイン税に関してもアメリカ不動産には大きな優遇があります。
むしろこのキャピタルゲイン税の優遇をうまく使って、アメリカ不動産で富を築いた人がほとんどではないのでしょうか?
そのキャピタルゲイン税の優遇とは主に2つあります。
それぞれ説明していきます。
- $250,000/$500,000の優遇
持ち家の場合は、売却前の5年間のうちで通算2年間、自宅(Primary Residence)として住んでいれば税優遇措置が受けられます。
値上がり益(キャピタルゲイン)のうち、タックスリターンでSingle Filingの場合は$250,000まで、Married Filing Jointlyの場合は二人で$500,000までが控除できるという措置です。
たとえば、ご夫婦で10年前に$500,000で購入し、現在価値$850,000の家から引っ越したとします。そのあとはとりあえずレントに出していましたが、3年以内に売却すれば、過去5年のうちの2年の居住条件をクリアしますので、キャピタルゲイン税は一切支払う必要がないということになります。
この控除は2年ごとに利用できます。
夫婦の場合、所有が連名でなくともどちらかひとりの名義でも大丈夫です。
どちらかひとりが過去5年のうち2年間所有し、夫婦ふたりで5年のうち2年住んでいれば、二人分の$500,000まで控除になります。
また、この所有の2年と居住の2年は同一の2年である必要はありません。
これについては以前のブログでも説明していますので興味のあるかはこちらをご覧ください
- 1031エクスチェンジ
物件を売って45日以内に、それを上回る価格の物件に買い換える手続きに入ればキャピタルゲイン税の支払いを次の売却時にまで先延ばしに出来る。
つまり買い換える物件を売却するまではキャピタルゲイン税を支払う必要がない。
1031エクスチェンジを繰り返せば事実上、キャピタルゲイン税は免除され続けられるという事になります。
例を出して言いますと、ハワイ州で50万ドルの物件を買ったとします。
5年経って不動産の価値が80万ドルに上がったので今度はテキサス州で40万ドルの物件を2つ購入しようと考えた時に、売却後45日以内にこのテキサス州の2つの物件の購入手続きに入ることが出来れば、キャピタルゲイン税を先延ばしに出来る。
そして最後に所有者が亡くなった場合。
贈与税、相続税等が日本ではありますが、アメリカではこれを遺産税と言いEstate Taxと言います。
日本の相続税と同じように、亡くなった人の財産に対して課税される税金となっています。
最高税率40%と非常に高額ですが、10億円以上の相続財産にのみ適用され、富豪層には厳しい制度です。
日本では日本人から日本人の子供でも、日本人からアメリカ人への子供でもアメリカの資産に関しても相続税は課税されますし、アメリカ国籍や永住権の所有者でも、元々日本国籍を持っていたならば、その相続人が日本人でもアメリカ人でも、日本とアメリカの資産に対して相続税を支払う可能性が高いです。
この日本の贈与税、相続税に関しては複雑すぎるので正直私にも良く解りませんが、私の子供達には日本に対しては支払う義務があるんだろうなと思っておいた方が良いと思っています。
ここをしっかり知っておきたい方は、専門家や税理士に相談する必要があると思います。
そしてここも最も重要な事は不動産が法人であれば、相続人を法人のメンバーに入れておく事。
個人であればトラストを成立して、相続人を明確にしておく必要です。
この様な事を知らずにただ所有して、もしその所有者が突然亡くなった場合、相続人が決まっていない残された物件は凍結され、親族間で裁判をしなければならなかったり、残された親族達にその他諸々の莫大な費用がかかってしまう可能性があります。
そうならない為に法人所有であれば相続人をメンバーに入れておく事。
個人所有であればトラストを設立し、相続人を明確にしておく必要があります。
これだけはタイミングがわからない事なので、不動産購入後、一番最初にやっておく事だと思います。
アメリカ不動産はお金さえあれば、外国人だろうが誰でも買う事が出来ますが、その出口戦略までをしっかりイメージして購入に踏み切ることが大切です。
殆どの不動産エージェントは買い手に物件を買わせる為に、早くしないとこんな良い物件は他の人が買ってしまうとか、もう2度と出てこない様な物件ですとか言ってくるかもしれませんが、アメリカ不動産を購入する前には最低今日お話しした事は知っておく必要があります。
これらを知らないでアメリカ不動産を購入するという事は、関ヶ原の戦いに裸で飛び込んでいって拳で戦うようなものです。
人生を左右する様な高額な資産ですので、しっかりとした知識が必要です。
あくまでもトシ伊藤の知識と経験を共有するものであり、ご自身のケースに適用される前には必ず遺産弁護士・公認会計士にご相談ください。